トランスコスモス社の現場(第二回放送)
音声はコチラ- 大串
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今回はスタジオを飛び出し、400人以上の障がい者を雇用している東京・渋谷にあるトランスコスモス社に取材して「障がい者の仕事を知ろう」と題してお送りします。
- 徳田
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今回会社を案内していただくのは、執行役員の古原広行さんと、障がい者雇用担当の横井山隆介さんです。それでは、先週からの続きをお聞きください。
障がい者の方が活躍するための社内環境の作り方とは?
- 徳田
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先ほど見学させていただいたフロアでは実際に200名の障がい者の方が働かれているとのことでしたが、一目では障がい者の方がいらっしゃるとはわからないくらいのとても自然な状態になっていましたね。
一番最初に、会社に障がい者の方を迎えるというときには様々な壁もあったかと思うのですが、そのあたりはどのようにクリアしていったのでしょうか?
- トランスコスモス
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まず、会社の中で障がい者の方を受け入れる土壌作りに一番苦労しました。
障がい者雇用における行政の指導というのがスタートしましたが、やはりせっかく雇用するのであれば、会社の中で障がい者の方にも活躍していただくことが大事。会社と障がいを持った社員の方とのWin-Winな関係を作るという方針で、障がい者採用をしていくことにしました。
社内でどうやって障がいのある方を受け入れるリテラシーを上げていくかというと、やはり実績を作るのが一番。実績を作るのにはどうしたらいいかというと、実際に仕事がある職場を作らなければいけないんですね。ですから、どんな仕事を障がいがある方にやっていただくのか?を探すところから始まりました。認められるというと語弊があるんですが、社内での障がい者雇用推進部の地位を作っていくことが大事だなと思ったんです。ですが、やはり最初はWEBの制作やデザインのお仕事など、健常者の方がやっているような業務は、障がい者の方には無理だろうという先入観念があるわけです。
会社としては障がい者雇用の責任がありますから、コストセンターになっても仕方ないという考えも最初はあり、そこに少し甘えさせていただいて、社外の取引先のHPを無料で作らせてほしいということで、私たちスタッフが歩き回り営業に行きました。
そうして障がい者メンバーの実績を作っていき、こういった業務ができるんだということを社内に知らしめて、実際に作業をさせてもらうことで、成果が現実になっていきました。
- 徳田
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最初は障がい者の方のできることに合わせて仕事を作っていくみたいな感じだったんでしょうか。
- トランスコスモス
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そうですね、やはり自然に仕事があるわけではないので、職場を作るというのが先です。
雇用の前に受け入れの体制をどう作るかということに力を入れたので、正直な話、ずっと雇用率は達成していなかったですよ。それでもしょうがないね、と。
長い目でみたら、人数合わせみたいな雇用は絶対に失敗するから、ちゃんと受け入れる体制を作るということに全力を注いだんですね。
- 徳田
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やはり数ばかりを追って、実際に入社してから働ける環境がないというのは問題になりそうですもんね。そういう場所作りから始めたということなんですね。
- 大串
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そういったところを経て、今はいかがですか?
障がい者の方もサービスを一緒に提供していますよということは、お客様にも説明するんですか?
- トランスコスモス
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障がい者雇用推進部というのがあり、外部から直接そこで受注をする場合もありますが、基本的には社内で現場から仕事をもらう形が主になります。
それなりのクオリティが出ているので、現場からはこちらに仕事を頼むということが増えております。
弊社の障がい者社員の約8割がプロフィットセンターで働いていて、2割がコストセンターです。
当初スタートしたころは逆で2割がプロフィットセンター、8割がコストセンターでして、よく普通の会社さんである事務のお仕事であったりとか、そういったところからのスタートだったんですが、今はプロフィットセンターでの働く人たちが逆転して8割という状況です。
- 大串
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立派ですねえ。
- 徳田
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乙武さんも先ほど気がつかれていましたが、上司の方が手話を使ってコミュニケーションを取られていましたよね。
- 乙武
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そうですね!あれは本当にびっくりしました。
- 徳田
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皆さんが自主的に、コミュニケーションの手段として学ばれるんでしょうか?
- トランスコスモス
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弊社には手話通訳士の資格を持った社員が2名在籍しておりまして、社内で手話の勉強会を開催しております。
また他の部署からも手話を覚えて彼らとコミュニケーションを取りたいという要望もありまして、個別の勉強会を開いたりすることもあります。
- 徳田
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素敵ですよね。
- 大串
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やはり受け入れる土壌があるんですね。
- 乙武
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私はプロ野球が小さいころから好きで、長年見てきているんですけれども、補強の仕方って各球団とても特徴があるんですね。
今足りないところに、緊急で取ってつけたように選手を取ってくる球団というのは、その年1?2年は強くなるんですけれども、やはりすぐに弱くなっていく。
本当に強い球団というのは、長期でこういうチームを作りたいという視点を持って、ドラフトで若い選手を取ってきてじっくりと育てていく。
急に野球のお話を始めてしまったんですが、今聞いたお話が、野球の話と結びついて思えて。
法定雇用率を達成するために急な採用をするのではなく、採用したからにはきちんと戦力として働いてもらうために、とにかく耕して土壌を作る時期を経たからこそ、今こうして400名という多くの方が働ける場所になったのかなと思いましたね。
障がい者に国政は務まるのか?乙武さんの国政に対する思い
- 大串
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乙武さんといえば国政のお話も伺いたいなと。
最近国会にも障がいを持った議員が登場して話題になっていますけれども、乙武さんとしては今の流れはいかがですか?
- 乙武
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そうですね。
あれだけ重度の障がいがある方が国会議員になられたということは、ものすごく意味があることだと思っています。国会もバリアフリーになりますし。
ただ、実際彼ら二人に何ができるのか?と考えたときに、彼らに障がいがあるかないかは関係なく、たったお二人しか障がい者議員がいない国政政党に、なかなか国政を動かす力はないと思うんですよね。
それはれいわ新選組でなくても、例えば国民民主党でも立憲民主党でも、彼らがどれだけ国政を動かせているかというと難しいところですから……。
議員が二人しかいない政党に過度な期待をするというのは、彼ら個人の能力ということとは別に、まだまだ難しいところがあるのではないかなと思います。
もちろん彼らが当選したことで、あんなにも重度な障がいを持つ方に、国会議員が務まるのか?という声もかなり挙がっていました。
それについて私個人の考え方をお話しさせていただくと、そこは選挙で国民の信託を受けて当選した議員であるのだから、税金を使ってでも徹底的にサポートをして、務まるようにしなければならないと思っています。
まずは、健常者である障がい者であるに関わらず、国会議員としての議員活動ができるように環境を整える。
その代わり一度環境が整って同じ土俵に上がったのであれば、障がい者だからという忖度なしに、議員として活動ができているのかというシビアな評価を、私たち有権者が下していくべきなのかなと思っています。
- 大串
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思ったより厳しい意見だったのでびっくりしました。
- 乙武
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そうですか?
- 大串
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やはり重要な第一歩なので、これからに期待してというころもあるのかなと……。
- 乙武
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いや、もちろんこれからだとは思っていますよ。
でもやはり、そこで甘く見てあげましょう、多めに見てあげましょうなんていうことになると、批判の声も強くなってきてしまうかなと思います。
彼らのためにも、そこはしっかりシビアに評価していった方が良いのかなと思いますね。
- 大串
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乙武さんご本人の、今後の政治に対する思いはどうですか?
- 乙武
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3年半前は、当時数ヶ月後に控えていた参議院議員選挙に出ようと腹づもりをしていたんですけれども、お恥ずかしいことに自分自身のプラベートなことでその道は絶たれてしまいましたので。
ただ私の場合は政治家になるということが目的だったわけではないんです。
私のような障がい者であったり、セクシャルマイノリティの方であったり、または育った環境が経済的に苦しいということであったり、またこの日本という国に産まれながらもご自身のルーツが海外にある方だったり……
いろいろな境遇の方がいらっしゃる中で、どんな境遇に生まれついたとしても、他の方と同じだけ平等なチャンスや選択肢が与えられる社会。これを実現したいという思いで、政治家になるというのはその一手段でありましたから。
それができなくなった以上は、違うアプローチでそういった実現したい社会に向けて、また新たな気持ちで尽力していけたらいいのかなと思っております。
- 大串
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少し私自身にも重なる思いがありました。
私は環境問題にずっと取り組んでいるという基盤があって、環境問題に対するアプローチの一つがビジネスという形になっているわけです。
同じ問題を解くのにも、色々なアプローチがあっていいですよね。
足を失った方に新たな選択肢を。乙武さんが尽力する最先端義足プロジェクト
- 大串
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乙武さんはまた違ったアプローチで、先ほどお話しされたような世界を実現しようとされているんですね。
- 乙武
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そうですね、今一番力を入れて取り組ませていただいているのが、義足のプロジェクトです。
私自身は前回もお話させていただいた通り、3歳から40年間電動車椅子に乗っているので、そこまで自分の足で歩きたいという思いを抱いたことはないんです。
ですが私とは違って、事故や病気によって人生の途中で足を失ってしまった、いわゆる中途障がいの方は、やはりいくら車椅子が便利でも、もう一度自分の足で歩きたい。
そういった願いを持っている方が非常に多くいらっしゃるみたいなんですね。
そこで、ソニーコンピューターサイエンス研究所が開発を進めている、最新式のモーターが組み込まれたロボット式義足というものが登場しました。
それであれば両足を失っている方であっても、二足歩行が可能かもしれないというところまできているんですね。実際にそれで二足歩行が可能になるのか。
可能だった場合は二足歩行をしたいと思われている足に障がいを持っている方にそのことを伝えていけるのか。
それには乙武さんのような、名前が知れた方が取り組んでくださることが一番なんですということで、オファーをいただきました。
それもまさに、足を失った方が今まで車椅子という選択肢しかなかったところ、こういった義足によって歩くという選択肢も出てきたということになってくる。
規模の違いはあれど、先ほどお話した「きちんと選択肢が与えられる社会」という私のビジョンには非常に合致するプロジェクトであったので、今はそこに向かって一生懸命やらせていただいているところです。
- 大串
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TVなどで拝見させていただいておりました。
二足歩行が可能になるまでは、まだまだこの先の苦労もありそうでしょうか?
- 乙武
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ありがとうございます。
そうですね、もともと生まれた赤ちゃんが二足歩行を獲得するまで1?2年かかるわけですけれども。
私は同じ状態どころか、むしろもっとマイナスな状態からのスタートになってしまうんですね。
というのも私は、普段ずっと車椅子に乗っておりますから、1日18時間ほど座った状態で生活をしていることになります。
そうすると体自体がアルファベットのLの形に凝り固まってしまっているんですよ。
ですから義足を履いて二足歩行しようと思っても……義足を履いた瞬間こそ背筋をぐっと伸ばしてI字型になるんですが、歩こうとして体を動かしているうちに、自然と体がL字になって、だんだん前のめりになってぱたりと倒れてしまうなんてことがあるんです。そもそも私の体は義足で歩くには三重苦を抱えていると言われておりまして。
膝がない、手がない、歩いていた経験がない。人間が歩くということに関して、膝が果たしている機能がすごく大きいらしいんですね。
同じく足がない方でも、膝まではあるのか、それとも膝もないのか、これは大きな違いがある。
私の場合は膝もないので、これは歩く苦労が大きい。これが一つ目です。二つ目は、手というのは一見歩くことにあまり関係なさそうに見えるんですが、実は人間というのは歩くという動作において手でバランスを取っているようなんですね。
なので手が私のように肘よりも短いくらいの長さであると、バランスを取ることができないので、歩くことが難しくなる。
皆さまでいうところの、竹馬に乗っているようなイメージになってしまうらしんですね。
- 徳田
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竹馬ですか……。
それは難しいですね。
- 乙武
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そうなんです。
三つ目が歩いていた経験がないということ。
私は先天性の障がいでずっと幼少期から車椅子に乗ってしまっているので、二足歩行していた時期というのが一度もないんですね。
ですので中途障がいで足を失われた方であれば、義足で補うことによって当時の感覚を取り戻して、また歩くことができるようになるようなんです。
私の場合はその感覚自体をゼロから獲得しなければならないということも、なかなか大変だということで。
今プロジェクトが開始して一年半が経ったくらいなんですけれども、一番最近の練習ではついに20mまで歩けるようになってきたところです。
まだまだ道のりは長いかな、というところではありますね。
- 大串
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初めて歩いた感覚というのはどうでしたか?
- 乙武
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やっぱり不思議でしたね。
一番最初はいきなり長い義足を履くのが難しかったので、私のこの太腿くらいしかない足のすぐ先に足首がつくような形でした。
履いてみるとまるでドナルドダックみたいな感じになるんですけれども。
そういったものから慣れてきたら10cm伸ばし、また慣れてきたら10cm伸ばしと繰り返して、今は義足を履いた状態で身長が160cmくらいです。
車椅子で一番座席を高くすると、身長でいうと170cmくらいまでいくので、目線の高さだけでいえば車椅子の方が高くはあるんですけれども、やはり義足を履いての目線というのは、またちょっと車椅子とは違う新鮮なものがありましたね。
- 徳田
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車椅子のままでも普段の生活ができる上で、義足にチャレンジするというモチベーションというのは、やはりこれからの未来のために、他の人にも伝えたいという思いがあってなのでしょうか?
- 乙武
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そうですね、本当におっしゃる通りで。
私自身が二足歩行をしたいという思いがあったかというと、正直ないといいますか。
車椅子で生活していて便利ですし、慣れていますので、個人的な歩きたいという思いは正直なかったんです。
でも今おっしゃっていただいた通り、自分の足でもう一度歩きたいという思いを抱いている方が多くいらっしゃる以上、なんとかこのプロジェクトを成功させたいなと思います。
また多くのみなさんにこのプロジェクトを知っていただいて、希望が出てきた、可能性が出てきたんだよということを広く伝えられたらいいなと思っています。
- 徳田
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「僕たちの街づくり2.0R」
今回はいつものスタジオを飛び出して東京・渋谷にあるトランスコスモス社からゲストに乙武洋匡さんをお迎え、お送りいたしました。来週も引き続き、乙武さんと一緒にお送りします。
世界各国を旅して様々なマイノリティと触れ合った乙武さんの経験から各国の社会の違い、多様性のあり方についてお話を伺います。
お楽しみに!