障がいを持つ人々について(第一回放送)
音声はコチラ- 大串
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今回はスタジオを飛び出し、400人以上の障がい者を雇用している東京・渋谷にあるトランスコスモス社に取材して「障がい者の仕事を知ろう」と題してお送りします。
- 徳田
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そして今回はゲストに、障がい者の立場から幅広く芸能活動を続ける乙武洋匡さんをお迎えしています。
乙武さん、よろしくお願いします。
- 乙武
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よろしくお願いします。
乙武さんの電動車椅子の機能とは?
- 徳田
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さて、今日は初めましてということで、よろしくお願いします。
気になったのが乙武さんの電動車椅子なのですが、ずっと何年も使われているうちに、やはりバージョンアップなどされるんですか?
- 乙武
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そうですね。私が3歳のころから電動車椅子に乗り始めたのですが、今43歳になったので、実に40年間乗っていることになりますね。
ただ40年という月日に比べると、実はそこまでバージョンアップはされていないんです。
というのもやはり、マーケットが小さいといいますか、利用者が少ないのでどうしても企業としては研究にかけられる費用が限られてきてしまうんですね。
ですからユーザーから「ここはこういう風になりませんかね?」なんてことを挙げさせていただいて、少しずつ改良されたりということはあるんですけれども、大幅に変わったということは実はそんなにないですよ。
- 徳田
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そうなんですね!
電動車椅子はオーダーメイドなのかなと思ってました。高機能で1つ1つ要望に合わせて、作り直されるものなのかなと……
- 乙武
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本当のフルオーダーメイドになってしまうと、ものすごい高額になってしまうと思うんですけれども、私の場合は元々ある形に昇降機能が加わっていて、座席が上がったり下がったりするようになっているんです。
そのことによって、健常者の方と同じくらいの身長・目線でお話ができるというのが、一番大きな特徴かもしれないですね。
- 徳田
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先ほど見させていただきました!そういうことだったんですね。
- 大串
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今流行りの「音声認識」みたいな、そんなハイテクな機能もあったりするのかな、なんて思ったんですけれども。
- 乙武
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あ、車椅子自体が、ですか?
私は実は、パソコンの入力でさえ手動といいますか、この短い腕を使って入力しているくらいで。
というのも、私がパソコンを使い始めたのが20歳くらい、23年前くらいになるんですけれども。
当時勧められて音声入力というものを使ってみたんですけれども、まあ当時のレベルというか、精度というものは……
- 大串
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全然使えないですか?
- 乙武
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そうだったんですよね。
なので「打った方が早いな」とやっている間に、もう打つことに慣れてしまったので。
今の音声入力の精度というのはかなり高いみたいなんですけれども、やはり20年以上手で打ってきたことに慣れてしまうと、なかなか変えるのに勇気がいるというか。
みなさんにはよく勧めていただくんですけれども、今のところはまだ手で入力していることが多いですね。
- 徳田
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そうなんですね。
では今日はいろいろと、様々な角度から質問をぶつけていきたいなと思っています。
- 乙武
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はい!
積極的な障がい者雇用を行うトランスコスモス社の業務内容に迫る
- 徳田
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ではここで、乙武さんと一緒にトランスコスモス社さんの社会科見学に行ってきましたので、その模様をお聞きください!
今回会社を案内していただくのは、執行役員の古原広行さんと、障がい者雇用担当の横井山隆介さんです。
まずはじめに、トランスコスモス社さんがどんなことをやっているのか教えていただけますか?
- トランスコスモス
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わかりました。
トランスコスモスは今年で創業53年目になります。
元々関西から事業を始めて、東京へ進出しました。簡単にいうとアウトソーシングビジネスをやっている会社です。
その中でも、「コールセンター」と俗に言われている業務が売り上げの半分弱。それ以外が「BPO」つまり「ビジネス・プロセス・アウトソーシング」というのですが、いわゆるアウトソーシングですね。
他社さんの業務を丸ごと受けてしまう。
例えば、給与計算、経費の精算、受発注業務などをうちが全部受けてしまうという形のビジネスをやっています。
またデジタルマーケティング系方面では、インターネットの関係の、広告からWEBの制作などのビジネスを手がけています。
全てがだいたいお客様の仕事を丸受けするので、アウトソーシングと言えばそれまでなんですけれども。
それが主なビジネスで、日本国内はもちろんですがグローバルでも展開しています。社員が今、日本で契約社員もいれて2万5~6千人。グローバルで5万人弱。
欧米・ASEAN・中国・韓国・台湾、主要なところにはほぼ進出しているという形です。
- 徳田
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本当に幅広くされていると思うんですけれども、今日は障がい者雇用に取り組んでいるフロアにお邪魔しております。
ここではどんなことをされているんですか?
- トランスコスモス
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先ほど言ったアウトソーシングのサービス部門があるのですが、ここは障がいがある方々のセンターということで、業務を受注しているところになります。
デジタルマーケティング系のWEBの制作とかデザインが、ほぼ主流になります。もちろんそれ以外のものも受けていますけれども。
- 乙武
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このフロアで働かれている方の何割くらいが障がい者の方なんですか?
- トランスコスモス
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ここにいる方々は、ほぼ障がいがある方々です。
- 乙武
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えっ! 全く見えないですけれど……
- 大串
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何名くらいいらっしゃるんですか?
- トランスコスモス
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200名くらいです。
あとは大阪にも70名くらいいて、障がい者の専門の部署には今380名くらい在籍しています。
こちらのフロアではクリエイティブの業務を、主に障がい者の方がやっておりまして。
先ほど申したようにWEBサイトの制作などになりますね。
またデザイナーが40名くらいおりますので、ポスターやチラシの制作とか、インターネット広告のデザインの業務をしております。最近は広告といっても静止画ではなく動画の広告も多いですね。特にSNSの、FaceBook、Twitter、LINEなどに出すお客様企業の広告の制作を、多く手がけております。
あとは変わったところでは、翻訳のチームもございます。
今13名の障がいがある社員が働いているんですけれども、対応言語も英語・中国語・韓国語に対応しておりまして。
うちの会社はやっぱりグローバルで、それぞれ韓国とか中国とかアメリカにも拠点がございますので、そちらから仕事を依頼されて翻訳の仕事をしているというケースが多いですね。あとはもう一つ、「バックオフィスサービス」といいまして、いわゆる事務系の業務ですね。
社内の総務とか人事の処理などを手がけています。
弊社はアウトソーサーですので、お客様企業から事務業務を受託しての処理も行なっております。例えばDMの発送業務であるとか、データエントリーなど、そういった業務にも対応しております。
テクノロジーを使い障がいを乗り越え職種の壁を打ち破る!
- 大串
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今日はトランスコスモス社に行きまして、400人の方が働いているということで、私もびっくりしたんですけれども。
ご覧になっていかがでしたか?
- 乙武
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「400人もの障がい者の方が働いている」というデータだけを知った状態でお伺いしてみたんですが、いざ職場見学をさせていただくと、とても自然と言ったらいいのでしょうか。
このフロアにいらっしゃる方はほとんどが障がい者なんですよとお伺いしたとき、おもわず「えっ!」って大きな声が出てしまったくらい、全く傍目から見たらわからない。
さすがに車椅子に乗ってる方がいればわかるでしょうけれども。
おそらくきっと、車椅子に限らないありとあらゆる障がいの方がいらっしゃるのかな、と。実際、一定規模以上の企業には、法定雇用率というのが定められてはいるんですけれども、やはり身体障がい者が一番雇用しやすいということもあって、企業が雇っているのが身体障がい者の方であることがほとんどなんですよね。
そう言った意味で、かなり車椅子の方がいっぱいいらっしゃるというイメージを持って、トランスコスモス社にお邪魔をしたんです。
そうしたらむしろ車椅子の方は本当に数えるほどで、おそらく聴覚障がいの方であったり、また発達障がいとかもあるのかな?
とにかくぱっと目で見てわかりにくい障がいの方が、多くいらっしゃるなというのが印象的でしたね。
- 大串
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聴覚障がいを持たれている方が、ものすごいかっこいいデザインされているのを見て。
この人はたぶん、健常者の方よりもしかしたらすごい能力を持っているのかもしれないなと思いまして。
- 乙武
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そうでしたね!
あとすごく印象的だったのが、上司の方が聴覚障がいのあるデザイナーの方を呼んで少し説明をされるときに、簡単な手話でやりとりをなさっていた。ただ、上司の方は健常者であり健聴者。だから、部下の方とコミュニケーションを図るために簡単な手話を覚えられたのかなと思うと、
そういうスタッフの方お一人お一人の前向きな取り組み努力があって、こういった400人という数字が実現できているのかなと感じましたね。
- 大串
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これを実現するためには相当いろんな苦労があるんだろうなと思います。
営業の方は逆にたぶん障がい者の方ではなく、障がい者の方を雇用することを目標に仕事を取るんだと頑張られたのかなと。
- 乙武
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ただその職種の壁というのも、これからテクノロジーによってどんどん打ち破っていくことができるのかな、なんて思っていまして。
最近よくタクシーに乗ると、タクシーの中で動画のCMが流れますよね。
照英さんがやられている「営業は足が命」というのが印象的なCMの中で「いやいや実は最近はそうじゃないんだ。足を使わなくてもインターネットを通じてオンラインで営業ができるんだ」というくだりがあるんです。
まさにああいったツールを使っていけば、たとえ車椅子に乗ってる、それから耳が聞こえない、そういった障がいがあっても営業ができるようになるという時代になっているのかなと感じさせられますね。
- 大串
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そうですね。
介護をしていたり、もしくは小さい子供がいるということで、家で仕事をせざるを得ないためにオンラインでやられているという方もいらっしゃいます。
テクノロジーを使って様々な障がいを越えていくことは、今後期待できると思いますね。
- 乙武
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そうですね!
アイデア次第で生まれるテクノロジーを用いた新たな雇用
- 乙武
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昨年はじめて試験的にオープンした「分身ロボットカフェ」というものがありまして。
「OriHime-D」という分身ロボットが、店員を務めるカフェというのがあったんですね。これがびっくりする内容でして。
私たち人間よりも、健常者のみなさんよりも一回り小さくらいの人型ロボットが、遠隔操作によって動いてウィーンと出てきて、注文を取ったり、実際に注文されたコーヒーやオレンジジュースを運んできてくれたりということをやってくれるんです。
何が画期的かというと、実はその遠隔操作をしているのが、自宅にいる寝たきりの障がい者や病気の方だったりするんですよ。
- 大串
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なるほど!
- 乙武
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ロボットにはカメラやスピーカーやマイクが内蔵されているので、ご自宅にいる障がい者の方が、例えば「いらっしゃいませ」とマイクに向かってつぶやいたら、そのスピーカーから「いらっしゃいませ」と音声が流れてきて、コミュニケーションを図ることができます。
もっと言えば、喋ることすらままならないような重度の障がい者の方でも、「アイトラッキング」目の動きによってカーソルを動かし、まばたきをすることでクリックをしたりすることで操作ができます。
あらかじめ用意されていた、よく使う定型の会話……例えば「いらっしゃいませ」「ご注文は何になさいますか?」などを目でカーソルを動かしてクリックすれば、機械的な音声にはなりますけれどもコミュニケーションを図ることができる。
これは素晴らしい取り組みだなと思うんですね。私自身はそんなにテクノロジーについて詳しい人間ではないので、このカフェはすごいハイテクだなあと思っていたら
「いや、乙武さん。これはローテクなんです。
特に高度な技術は使っていなくて、あくまでラジコンの延長線上のようなものなの。そんなに難しい技術は使ってないんです。
ただ、僕ら日本はこれだけ簡単な技術でも、アイデアさえ張り巡らせればきちんとこういったテクノロジーを用いて、障がい者の方、ましてや自宅で寝たきりの方にも労働を届けることができるんです。」
というようなことをおっしゃっていたのがすごく印象的でした。私も実際に利用者として、お客さんとして行ってみたんです。
担当をしてくださったのは、10年間ご病気で自宅から一歩も出ることができていない、当然お仕事もできていないという方でした。
「このOriHimeロボットのおかげで、私は10年ぶりに仕事ができているんです」と仰っていましたね。
このカフェは試験的に2週間オープンしていたのですが、「2週間フルで働くと数万円お給料が貯まるので、それでこの10年間心配をかけた家族にお寿司をごちそうしたいです」なんて仰っていて、とても素敵なお話だなと。去年だったか今年だったか、中央省庁で、障がい者の雇用率を水増しで申告していたということがありました。
あれだけ賢い人たちが集まっているはずの中央省庁でさえ、水増し、つまり嘘の申告をしなければ達成できなかった障がい者の雇用率。
そんな中「OriHime-D」というロボットは、テクノロジーを使ってしっかり障がい者に雇用を届けている。
まだまだ知恵を絞れば、アイデアを張り巡らせれば新たな雇用の可能性があるんだよということが、多くの方に伝わったらいいなというように思いますね。
- 徳田
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時代と共にどんどん進化もしますし、生き方も働き方も変わっていきそうですよね。
- 乙武
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そうですね、本当にテクノロジーによって変えていけることというのは大きいなと思いますね。
- 大串
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そういったアイデアにインスパイアされて、また別のアイデアが出たりだとか。
そうしてもっといい社会に繋がっていくといいですね。
- 乙武
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おっしゃる通りですね!
- 徳田
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ありがとうございます。
まだまだお話は尽きないところではあるのですが、そろそろお時間ということで、このお話の続きはまた来週お聞きしたいと思います。
- 大串
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「僕たちの街づくり2.0R」
今回はいつものスタジオを飛び出して東京・渋谷にあるトランスコスモス社からゲストに乙武洋匡さんをお迎え、お送りいたしました。乙武さん、ありがとうございました!
来週も引き続きよろしくお願いいたします。
- 乙武
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ありがとうございました!
- 徳田
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「僕たちの街づくり2.0R」
今回はいつものスタジオを飛び出して東京・渋谷にあるトランスコスモス社からゲストに乙武洋匡さんをお迎え、お送りいたしました。来週も引き続きトランスコスモス社にお邪魔して、乙武さんと一緒にお送りします。
今週は主に、障がい者雇用の実態、業務内容などについてお話いただきました。
次週は障がい者を雇用するために、どのように環境を整えてきたのかを伺い、「障がい者雇用の土壌作り」と題してお送りします。
また、乙武さんが現在携われている、最新鋭の技術を搭載した義足を用いて歩行に挑戦する「義足プロジェクト」についてもお話を伺っていきます。
お楽しみに!